こんばんは。今回は花束みたいな恋をした。を見てきました。
今回の作品は恋愛作品という事で、恋をしたくなった。とか感動したとかそういうものではなく、
大傑作でした!
と言えるくらいの素晴らしいものでした。控えめに申し上げますと、恋愛映画の枠を超えた超傑作でした。寧ろ恋愛映画に対するカウンターアタックと言うべきでしょうか。そんな凄みを感じました。
ストーリーだけ読めばよくある普通の恋愛作品。しかし、ふたを開けてみると広告逆詐欺レベルの非常に濃密で、男女の恋愛観、膨大な伏線で非常に丁寧でいい作品です。
ただし、中身がサブカル作品が出てくるところもあり、その作品を知らない方にとってはぽかーんとするリスクもありますので、先におすすめ出来る人を抜粋しておきますと…
- サブカル、ポップカルチャー好きな方
- 京王線沿線の方
- 恋愛映画が苦手な方
- 映画を愛する全ての皆様、そうでもない皆様
全てにお勧めです。まあ、ポップカルチャーのドキュメンタリー要素もあるため、権利問題とか色々難しそうな映画ですが、DVD等で販売するあたりで色々改変しそうなので、
是非とも今、このタイミングで映画で見るべきです。
因みに公式サイトはこちらからご覧ください。
花束みたいな恋をしたさて、なるべくネタバレしないように注意はしますが、間違いなくネタバレすると思いますので、このあたりはご了承ください。
あらすじ
京王線明大前で終電を逃した大学生の絹(有村架純)と麦(菅田将暉)が恋に落ち、その付き合った5年間のモノローグ。
終電を逃した後、二人の趣味が合致したことにより意気投合。そして、話していくにつれ、恋に落ち、お互い付き合う事になります。そしてお互いがひかれあい、同棲し、恋愛生活を送る。
これだけ見るとまんま恋愛映画にありがちですが、作品の中にゴールデンカムイだったり菊池成孔だったり、今村夏子、天竺鼠だったりポップカルチャーがガンガン出てくるところから、も普通の恋愛映画じゃないのは確か。
個人的にはZAZEN BOYSのTシャツが出てきたのは僕は見逃しませんでした。
で、なんでこれが逆詐欺かと言うと、この映画は恋愛における不可逆的な要素もあれば、恋愛と現実とのギャップだったり、そういった要素を膨大な伏線だったりリアルな感情を羞恥を込めながら描くと言うコンセプト。実は滅茶リアルな映画だったりします。
現実と社会性と向き合っていく中で、二人の方向性が変化していき、どんどんすれ違っていくのは勿論の事、
双方を繋ぐものが、次第に別れの象徴に変化していくと言ったように、それぞれの思い出がだんだんと変わっていく。その変化をポップカルチャーやビジネスを通じて変わっていく、この様子が本当に締め付けられる上に、非常にエゲツなく、現実を突きつけられる作品とも言えます。
まぁ、実写映画にバンバン出てる菅田将暉さんが安易な実写映画を批判するあたりの風刺も絶妙だったので、その辺りからもこの映画のスピリッツを感じる事でしょう。
予告はキラキラな恋愛映画なのにね(ぼそっ)
映像表現が凄い
真っ先に感じたのは表現方法ですかね。最初は麦と絹のラブラブ描写が多かったのですが、その時は二人以外は描写はピンボケが多かったにも関わらず、後半に関してはそういった描写はなし。
その特徴に関しては告白シーンが顕著でしょう。スマホ越しでお互いが写されつつも、それ以外はピンボケ。お互いがお互いを意識していることもあり、結果相手しか見れていない。と言ったのを如実に表しています。
恋は盲目とは言いますが、お互いの事しか見えていない。そういった描写を的確に表しているとも言えます。実際後半のすれ違うシーンに関しては現実的でクリアな描写がメインと化しているので、この考察は間違いではないかと思います。
個人的にはこの二人はポップカルチャー好きというよりもサブカルワナビーな面もあり、そういった自己愛とそれを共有できる脆さが不完全で青く、二人だけの世界と言うのをうまく表現しているなとも感じました。
こういった描写は他にもあり、最初は同じスニーカー(ジャックパーセル)で同じ歩幅で歩いていた二人だったのが、終盤は違う靴で、歩幅が合わなくなったり。
(因みに二人が履いていたのは白のジャックパーセルのローカットモデルです)
そういった行動であったり、共通のカルチャーアイコンに対する変化だったりと、モノや行動に対する描写が凄く意味深で見せ方がうまいんですよね。
恋愛において、その時一緒だった場所、その人が好きだったものって滅茶苦茶印象に残るんですよね。そういうのをうまく表してました。
香りや匂い、物と言うものは思い出のトリガー足りえます。例えば元カノがつけていた香水を嗅いだら元カノの事を思い出したり、
元カノが好きなバンドを聞くとその人の事を思い出したりと、モノや風景、感覚はきっても切り離せないもの。そういったものをポップカルチャーを通じて表現する凄さも非常に素敵でした。
あと、こんな事書いてるくせにお前恋愛経験少ないだろ。知ってるぞって思ったやつ

話そのものは単調である
ストーリーが過去の恋愛のモノローグが多い事もあり、一気に大きな変化が起きるわけではありません。
例えるとしたら終始日常ものなので仕方ないかもしれませんが。音楽で例えるとならば特定のコードでずっと進行している感じでしょうか。その中でも演奏の中で少しずつずれていき、最終的には決まった進行であるにも関わらず、全くの別物となっていくと言う感じでしょうか。
共通の価値観と有していた二人が、現実と向き合っていく中で離れていきずれた結果、最終的には全く別物に仕上がっていたり、
急激な変化ではなく緩やかに進行していく感じが強いのが当作品。
しかし、二人はお互いの関連性をずっと続けていきたい。という点には共通の意識は持っていたので(結果として、そこには齟齬があったとしても)、大きな変調はありませんでした。
寧ろそういった変調を使おうものならば、この作品はここまで傑作とはなりえなかったでしょうし、緩やかな進行でいいのかもしれません。
個人的には全体的に統一されたコードで四季や感情の変化を徐々に変化させたFISHMANSのロングシーズンを聞いているような気分でした。
コンセプトも前提も違いますが、そういった凄みを感じました。
未来と過去、恋愛と現実と言う対象描写
さて、この作品を広告逆詐欺と言った話に戻します。冒頭でも話しましたが、予告はキラキラ恋愛映画ですが、実質はお互いのすれ違いを描いた作品。
麦くんは当初、イラストレーターを目指しており、どちらかというと理想に生きていたものの挫折。その後、挫折した麦くんは就職し、理想を捨てて現実に生きていく。
絹ちゃんは世間体や生活から現実に生きていたものの、だんだんともどかしさを感じ理想に生きていく。
と言ったように取り巻く環境が変わっていく中でそれぞれの価値観が変わらざるを得なくなり、結果としてすれ違うと言うのがコンセプトですよね。
麦くんは 理想→現実
絹ちゃんは 現実→理想
と言ったように変わっていくやつです。そうしていく中で最初麦くんが言っていた事を絹ちゃんが言っていたり、その逆も然り。それでもお互いの為を思ったが故の結果がこうなってしまうという悲しい展開。
それでもお互いの為を思った結果だから余計に辛い。恋愛と現実、恋愛と社会と言う対比から始まり、次第に段々とお互いの価値観の根本的なズレが露になるのが当作品の本質とも言えます。
麦くんにとって絹ちゃんとの関係で目を向けていたのは過去。今までの過去の美しい思い出を振り返り、そこに重みを置いている。そういった意味では実績ベースと言えるでしょう。
二人の関連性の目標は現状維持という麦くんのセリフからも如実に出ています。
絹ちゃんは麦くんとの未来を見ている。麦くんとの現状を加味し、結果として麦くんとの未来について考えている。現実的に見えても二人の未来を見る理想ベース。
こういった違いから崩れていく恋愛観を、派手な描写を使わないにしても日常ベースで対比という構造を使い、うまく表現しているなあと感じました。
ここで、僕が思い出したのは
男の恋愛は名前を付けて保存、女性の恋愛は上書き保存
男にとってはいい思い出を切り取りたいし続けたい。女性は未来を見据えて行動する。
このワードの本質的な意味を改めて痛感した次第です。
こういったリアルな恋愛や男女の価値観を恋愛と社会の関連性、好きなものに対する思い出や反応はあくまで要素でしかなく、男としての恋愛、女としての恋愛をうまーく描いてるなと思いました。
勿論、あくまで個人差があるので、みんながみんなそうとは言いませんが。
対比構造を様々な形でより強調し、その本質を出す。そういった構造にはあっぱれです。
最後のジョナサンでの別れのシーンでそれぞれの涙の意味も違ってきますしね。同じ行動でも意味が違う。そういった表現のうまさも素敵でした。
普通の恋愛作品であれば、男性目線で見る映画、女性目線で見る映画とどちらかに偏りがちですが、この作品に関してはバランスが良く、どちらの視線でも見る事が出来るのでそういった意味でも丁寧に作られています。
ダブルミーニングな伏線
冒頭でカップルが一つのヘッドホンで同じ曲を聴きあっており、それに対してLの音とRの音は違うから、同じ曲でも違う曲になるんだぞ。って二人が言いに行こうとするシーンがあるのですが、
何でもないこのシーンが正直本質だったりします。
このシーンはかつて麦と絹が同じことをしようとしていた時に、音楽エンジニアの人に絡まれて同じことを言われたので、そのシーンに対する伏線なのかな。程度にしか思っていなかったのですが、
段々とみていくうちに、このヘッドホンのシーンはより重要な意味を成していくのです。
すれ違うたびに、見る世界が違う二人。
同じ恋愛をしていても見ている世界が違う。そんなメタファーだったりします。伏線を一度だけでは終わらせず、複数の伏線どころか伏線だらけの作品とも言えます。正直1秒でも見逃したら、そういった伏線を逃してしまう。
それをやるためには丁寧な作品作りは必須。1秒たりとも妥協せず、丁寧に作られているな。というのもこの作品の感想です。
で、結局花束とはなんなのか
この作品を見た方でそう思う人は多いと思います。これに関しても多くの意味があると考えています。
麦くんと絹ちゃんが一緒に写ってる写真を見るシーンで、写真にのってた花の事が気になり、
「この花なんて名前なんだろう」
と聞きます。ここで絹ちゃんが恋愛ブロガーのセリフを引用して
「男の人に花の名前を教えたらだめだよ。その人の思い出になっちゃうから」
というシーンがあります。実はこれには元ネタがありまして、これ川端康成の「化粧の天使達」と言う短編の中のセリフの一つです。掌の小説のと言う小説集に載っているものです。
実際のセリフはこちらです。
別れる男に、花の名を一つは教えておきなさい。
花は毎年必ず咲きます。
川端康成 掌の小説より引用
付き合いたての絹ちゃんにとって、花の名前を教えると言う行為は別れを示唆しており、勿論その名前も教えませんでした。
そして、結局最後までその花の名前を明かされることはありませんでした。
このセリフ自体は別れても私の事を思い出してね。花は毎年咲くからずっと私の事を忘れないでね。という風にも捉えます。
絹ちゃんが結局教えなかったという事は、麦くんとの関係は終わらせたい。と言う未来へ向けて進んでいると言う事を意味します。そういった意味でこの恋は終わり。とも言えますが、これに対しては一つ疑問がありまして。それに対しては後述します。
そういった意味で絹ちゃんにとっての花は、未来に向けた理想であり、理想を目指した恋だった。絹ちゃんにとっての花は思い出であり、未来への痛みだっととも捉える事が出来ます。
一方麦くんにとっての花は思い出でしょう。共通の価値観であったり、思い出を大事にしており、その思い出そのものが花だったと言えます。
きのこ帝国だったり、一緒に見た作品だったり麦くんの恋愛にとって、テーマは過去の思い出。その時いた思い出や共有するものは、絹ちゃんのトリガーになりえるし、その素敵だった思い出そのものが花とも言えます。
ここで花束みたいな恋をしたを変換すると、思い出ばかりの恋といったところでしょうか。
本質的な意味での川端康成的が麦くん。ですね。麦くんにとっての花はそれに対するツールや思い出とも捉える事が出来ますね。
見方が違うからこそ、同じシーンでも見方が違ったり、そのずれがよりヘビーなものになっております。
麦くんと絹ちゃんにとって意味は違えども、結果として
花束みたいな恋をした
と言えるのではないでしょうか。どちらが間違っている、どちらが正しいと言えるものではないですが、人によって意味が違うとも言えますね。そういった意味で人によって見方が変わる作品とも言えます。
ぶっちゃけ、オタクに恋は難しいってタイトルでもいけそうですが、このタイトルで良かったとも言えます。それだけタイトルも非常に天才的です。
Awesome City Clubが勿忘と言う曲を作ったことに関して
この作品にも出演したAwesome City Clubが勿忘と言う曲を作っています。非常に名曲で映画を見た人でしたら映画を思い出すような名曲となっているのですが、なんで勿忘なのかが疑問なんですよね。
なぜかと言うと勿忘草の花言葉にその理由があります。
勿忘草の花言葉は 私を忘れないで
絹ちゃんは最後に花の名前を教えなかったにも関わらず、何故私を忘れないでなのか。恐らくここには複雑な女心が絡んでいると思うので僕みたいなおっさんには想像つかないと思うので、
この気持ちがわかる女性の方は教えていただけると幸いです。
個人的にはもう一つの意味の
真実の愛
説が有力と思っており、この恋は真実の愛だったという解釈でとらえております。
さて、どっちが正しいのやら。どっちも正しいのか。真相は藪の中です。
まとめ
と言ったように非常に丁寧に。過度な演出もなく日常をうまく見せる大傑作だったと思います。
個人的に恋愛映画は過度な障壁があったり、俺は何を見せられているんだと言う描写が多くて苦手だったのですが、そういった恋愛映画嫌いでも傑作と思えるレベルでした。
実はこの映画、ロケ現場をよく目撃していたので気にはなっていたのですが、予告見た瞬間好みでないと思っていたため、スルーしましたが辛口レビューに定評のある映画当り屋CHが大絶賛していたので、ソッコーで行ったと言うのがヲチです。
因みにおっさん一人でこの映画見に行きましたが、意外とおっさん一人客もいたのでおっさん一人でも楽しめる作品です。おっさん見に行こうぜ。
中身はヘヴィでしたが、見た後は清々しさがあり湿っぽさが無かったので良かったです。
非常にいい気分で帰れました。
まとめのまとめ
労働は心を壊す
最後の最後でひでーまとめ方しちまった。
そんじゃーね。
でさでさ。このままだとアレの極みなので少しけ追記しましたので、暇な方はご覧いただけますと幸いです。



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